プロバンスの魔力
「私はセザンヌのサント・ヴィクトワール山を買ったのだ」これはピカソが、今から五十年前、一九五九年にヴォーヴナルグ城を買い取った時に残した言葉だ。ピカソはこの城に埋葬されている。彼は祖国スペインを思い起こさせるような、この地の素朴で厳格なところがすぐに気に入った。南仏エクサンプロバンス(エクス)から数キロ、有名なサント・ヴィクトワール山のふもとに建つ城は、この夏初めて一般公開された。
これと並行して、エクスのグラネ美術館は大規模な「ピカソ・セザンヌ」展を開催中だ。彼らは一度も会ったことはないが、ピカソはこのエクス出身の画家を唯一の師のように仰いでいた。セザンヌの絵を四枚所有し、「どうすれば、こんなにうまく描けるのか」と言った。セザンヌはモチーフ(主題)を単純化する表現方法だったが、それは彼らに共通していた。
エクスのセザンヌのアトリエに行けば画家の感情をある程度わかるが、それよりも自然の中に、とりわけセザンヌの絵の中を散歩しているようなビベミュの石切り場に行くのがおすすめだ。
「西欧のフジヤマ」のあだ名もあるこの山はプロバンスの象徴であり、多くの画家にひらめきを与えてきた。それは今も続いていて、エクスで日仏の友好活動に取り組んでいる画家モニク・ファイヤールもその一人だ。
(東京新聞連載 本音のコラムより)