飛騨高山
友人のカトリーヌ・オーデン(仏政府観光局東京事務所長)は随分前から飛騨高山について私に語ってきた。彼女は、この土地に一目ぼれし、まるで「安楽の暮らしをする国」のように描写した。一九九三年のことだ。以来、彼女は実に二十七回(!)も彼の地を訪れている。その二十七回目、とうとう私も彼女に同行し、フランスのガイドブックも最高の三つ星クラスと称する高山の魅力に触れることができた。
高山は、それほど広くない地域に文化や伝統、自然が集まっていて、歩いても自転車でも回ることができ、日本の大きな魅力である温泉も近くに点在する。本当においしい土地の味も堪能した。山菜に魅了され、飛騨牛、朴葉みそ、大好きなウナギも…。
「飛騨の里」では自然の美しさが生かされていて、合掌造りの家並みを散策したり、骨董品の店で掘り出し物を探す楽しみもあった。そして三町筋。町並みを保存するよう指定された地区では木造の家々が絶妙のハーモニーを奏でていて、私は日本でこんなにも美しく調和した町並みは見たことがないほどだった。
ただ、カトリーヌは非常に残念がっていた。数年前から、歴史あるお店がいくつも、けばけばしい土産物屋に変わり、彼女の好きな場所が一つ、また一つと失われているのだという。何と残念なことだろう。
(東京新聞連載 本音のコラムより)