「ワインを味わいながらのんびりと、だから、メドックマラソンは楽しい。」
スポーツとワインは相容れないなんて、いったい誰が言い出したのか?
そんなはずはないとばかりにマラソン好きの医師が集まって、彼らの故郷フランスはメドックでマラソン大会を企画したのが1984年。メドックはボルドーの北、ジロンド河沿いにある、世界に冠たる高級ワインの産地だ。何を隠そう、私もここのワインの大ファン!
メドックでマラソン大会が開かれるとなると、ワイン醸造家たちも黙ってはいない。多くのシャトーが、この大会に協賛することとなった。 |
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となれば、普通のマラソン大会で終わるわけがない。マラソンコースのそこかしこでは音楽が演奏され、ワインのテイスティングができるコーナーもあれば、生牡蠣(美味!)のテーブルも用意されている。
そして、ランナーのなかには仮装して走る者もいる。目の前の光景は、まさに、"お祭り"。これが本当に42.195kmを走り抜く競技なの?ランナーたちは楽しみながら、それぞれのペースで駆け抜けていく。
だから、ゴールにかかる時間は自然と長くなる。この大会が"世界で一番長いマラソン"と呼ばれる所以だ。3日かけて完走する選手もいるというから驚きである。 |
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そんなお祭り気分、快楽的な雰囲気に惹かれて、参加希望者は年々増えているという。今年(98年)は7500人の参加枠に対して、1万5000人の希望者が集まるのだから、その人気のほどがわかる。
もちろん、そのコースの美しさも、この大会の魅力である。参加者は大会2週間後に収穫を控えた房がたわわに実った、葡萄畑の広がる風景のなかを走る。ラトゥール、ムートン=ロッチルド、ラフィット=ロッチルドなど、第一級のワインを産する畑の合間を縫って、くねくねと曲がった小径を走るのはさぞや気持ち良いことだろう。 |
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もちろん、お楽しみはそれだけではない。期待通り、各ポイントごとに素晴らしいワインが用意されているのだ。ポーイヤックを出発して、まずシャトー・ラトゥール方向に走る。シャトー・レオヴィル=ラス=カズ、次にシャトー=ラグランジュで、ランナーはワインを味わう。20km地点の休憩所はポンテ=カネ。ワインの誘惑には勝てない。しかも、シャトーのオーナーが自らワイングラスを手渡してくれるのだ。ためらう理由など、なにもない。ランナーの工夫を凝らした仮装を前に、オーナーも実に楽しそうに笑っている。
なかでも傑作だった仮装は、バレリーナの格好で走った男たち、サムライ姿のランナー、自由の女神、101匹わんちゃん。サッカーのゴールキーパーに仮装した選手は、ゴールに扮した2人と走っていたのだが、ちゃんと3人並んで完走したのには驚いた。 |
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参加者の2割が外国人で、日本人も3人いた。そのうちの一人、東京から参加した松本氏(31歳、全日空のパイロット)にも会った。トレーニング不足のため20kmしか走らないつもりで参加したそうだ。
もちろん、定期的なトレーニングを積んで、この大会に備えたランナーも多くいる。最初にテープを切った、フィリップ・レモンもそう。2時間24分のタイムで5回目の優勝を飾った彼の家にはちょっとしたワインのコレクションがあるに違いない。なぜなら、この大会、優勝商品として体重に相当するだけのメドックのグラン・クリュ(特級ワイン)が贈呈されるからだ。羨ましい。
メドックのマラソンはスポーツ病理学の研究にも役立っている。マラソンで集められたデータをもとに、大会の翌日、医師が会議を開くのだ。会議の公式的な結論は以下の通り。「定期的な運動と適度なランニングがカラダに良いのは議論の余地がないように、適量のメドックワインを日常的にたしなむこともまた、健康のためにたいへん効果的である」
この結論、ワイン好きには嬉しいかぎりだ。 |
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●メドックマラソンオフィシャルサイトはこちら
http://www.marathondumedoc.com
(1998年マガジンハウス社『TARZAN』に掲載)
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